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さよひめ戦記535 003 [小説2]

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「耶麻の人の国は・・・辺境だからな・・・天の大国が強い国であった頃・・・倭(イ)の国は海を中心に・・・栄えていた」
小夜姫がりんとした声で小さく言った。
「末羅の浜はその都だったから・・・どうしても雅びる・・・それにくらべて・・・あの者たちは鄙びる・・・」
「田舎ものなのですね・・・」
少年の声に幼い者ゆえの侮蔑の調子が混じる。
小夜姫はあえてそれをとがめることをせずに言葉を継いだ。
「大陸の中原の都にくらべれば・・・この浜だって大田舎ですよ」
少年にはその皮肉は届かなかったようだ。
幼い眼差しは見たこともない大軍の上陸にそそがれていたのだ。

そんな眼差しを露とも知らず、耶麻人の将軍大伴狭手彦は上陸を終えた軍馬たちが目隠しを外される様を検分していた。
異国の少年に将軍らしくないと評されたとはいえ、屈強な兵士の中でも目立つほどに逞しい体・・・。
かすかに幼さを残す顔にも若やいだ精気が漲っていて・・・従う者をとりこむ魅力を感じさせる。
           
狭手彦の傍らに付き従う世話役の佐伯部角(サエキベのツノ)などは狭手彦を崇拝していた。
彼は幼い頃から狭手彦と共に育てられ、何度も英雄的な狭手彦の振る舞いを目撃している。
角は手下を配して・・・上陸作業の補佐をしながら・・・同時に狭手彦の身辺警護をしているのだ。
伝令の一人が角にかけより耳打ちをする。

「あちらから稚室(ワカムロ)様たちが」
角に言われ狭手彦が目を向ける。
人馬の群れの中から数人のたくましい軍人が馬に乗って近寄って来るところだった。
狭手彦は彼らが小声で語りあえるまでの距離に接近するのを待って話しかけた。
 
「倭〔イ〕の部民(かき)たちの様子はどうだ」
「今のところはおとなしいものだ」
答えたのは狭手彦よりもいくらか年上の大伴稚室である。
髭を蓄えている点を除けば顔立ちが狭手彦とよく似ている。
それも当然で二人は従兄弟同士だった。
稚室は狭手彦よりもさらに大柄だった。

耶麻人の国の武人の一族はその子弟に幼少から厳しい訓練を施す。
それはスパルタ式の教育であり、耐えられぬ者は死ぬ。
特に大伴は軍の頭領の一族であるためにそのしごきは苛酷を極めた。
彼ら二人の体格の良さは彼らがそこで生き残ったという証しにほかならない。

軍の上陸はほぼ終わり、整列が開始されていた。
それを馬上から眺めながら稚室がさらに声をひそめて言う。

「それにしてもあの連中はしばらく鍛え直さなければならん」                         
横からこの軍団の参謀たちの中で一番の年長者である久米牡鹿(クメのサオシカ)が口を挟んだ。
「まったく使いものにならん連中じゃ。
あのようなものどもを相手の戦なら眠っておっても勝ちが動かぬ。  
麁鹿火(アラカイ)もさぞや気楽な戦であったろうて」

稚室が苦笑を浮かべて古兵の言葉を諌める。
「そんなことを言うものではない。どこで物部の部民が聞き耳を立てているか分からぬのだ。口は災いの元というぞ」
狭手彦が言い足した。       
「物部麁鹿火の魂(たま)が墓の下で怒り出すぞ」
主筋とはいえ、年下の者にやりこめられ、牡鹿は不服そうに言いつのる。                       
「ふん。物部の者に魂などないですわい。あるのは悪霊(もの)に決まっておる」

「ともかく倭の国の兵たちは再訓練(しこみなおし)が必要だということだ」
稚室が話題を戻した。
頷いて狭手彦が言う。
「分かっている。だからこの末羅の国に陣を置いてしばらく時を過ごす」

そこへまた別の伝令の若者が走りこんで来た。
角が報告を狭手彦に伝えて言う。
「狭手彦様。末羅の国の長たちが挨拶に参ったそうです」
狭手彦が馬の首を巡らすとその一団が目に入った。
彼は一言「会おう」と言うと愛馬を進めた。
牡鹿を初めとする参謀たちも後を追う。

牡鹿が狭手彦に馬をよせつぶやく・・・。

「気を許されるな・・・ここは敵(あた)の地ですぞ・・・」

(つづき)→http://kid-blog.blog.so-net.ne.jp/archive/20081219
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