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さよひめ戦記535 006 [小説2]

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そこへ敵(あた)がやってきた。彼らの生に方向性をあたえるものが。

「あの軍には随分と倭(イ)のものたちがいるようだ」

骨が見えるほど痩せた安致細蟹(アチのササガネ)が誰にともなく言った。

「蛆虫め」

弓の名手で顔に傷のある祝鮫(イワイのミヅチ)が吐き捨てるように言う。

「おめおめと耶麻人などにくだりおって」

外交官であり、教養の高い細蟹がわびるように応える。

「仕方あるまい。家族を人質にとられておるのだろう」

「人質になるようなもの。一族とは思わぬ」

祝鮫は体を震わせた。
力自慢で人馬を一太刀で切り殺したことのある大男の海鯨(アのイサナ)がうっそりと言う。

「敵が動いた」

耶麻人の軍は分散し、狭手彦の率いる一隊が土地の長とともに川に沿って移動を開始している。
細蟹が首を伸ばす。

「あれはきっと篠原の村に行くのだ。行って戦の占いをするのだろう」

「ならば、身分のあるものだな」

「おそらく」

「それにしては人数が少ない」

「腕に覚えがあるのだろう」

「ふん。賊の技などたかが知れている」

そう言って祝鮫は弓を握りしめた。

「吾は奴らを追う」

身をかがめて歩き出した鮫に痩せた男と大男は黙って従った。
こうして三組の人々が別の道筋で篠原の村へと動き出した。

狭手彦たちは戦の占いをするために。
鮫たちは敵を殺すために。
そして小夜姫と蜻蛉(アキツ)は自分の家へ帰るために。

その頃、獲物を抱えた石動蜜蜂(イスルギのスガル)は篠原の村に戻っていた。
先触れが来て、耶麻人の軍が村に寄ることを告げたため、村人たちはもてなしの宴の準備に忙しい。

霊山である影見の山の麓、末羅の大川の上流に沿って広がった篠原は古い大きな村だった。
周囲は田園で家は千戸を越えている。
中心部は広場になっていて人々の集う場所である。
そこへ大量の食物が運び込まれ、客のための席が設けられつつあった。
蜂は広場に近い、一際大きな篠原の長の家の前に獲物の魚介類の入った網を降ろした。
そこへちょうど中年の女が現れた。
スガルを認めるとにっこりと笑う。

「石動の兄様、大漁だね」

「篠原の母様。今日はいい平目が捕れました」

「まあ、よかった。姫様の喜ぶ顔が目に浮かぶ」

「母様の好きな赤貝もありますよ」

「ほお。兄様も人の機嫌をとるようになったか」

村長の妻は若者をからかう。
そして家の娘たちに声をかけ、魚を運ばせながら、釜戸の小屋にスガルを誘った。

「今日はたくさんの客人があるので助かりました」

スガルはあたえられた豆菓子を食べながらほんの少し緊張した声で尋ねる。

「耶麻人の軍が来るのですか」

「そうです。でも先触れの話では人数は少ないようです」

「しかし、野蛮なやつらだと言うではないですか」

「ほほほ。何を心配しているの。姫様の御身ですか」

図星を指されてスガルの顔が赤くなる。長の妻は面白がって言った。

「でも兄様がいれば大丈夫でしょう」

スガルは答えに困って話題を変えた。

「そういえば先に来た客人たちの様子はどうですか」

「相変わらず。何をさぐっているものやら」

「長様と浜に行かなかったのですか」

「ええ。客の小屋にこもりっきり」

「しかし、同じ耶麻人の者なのでしょう」

「どうやらそうでもないらしい」

二人が噂をする先の客とは陰険な目付きをした太った男とそのお供の者たちだった。
今、彼らは村のはずれのあてがわれた家で密議をこらしているところだった。

「そうか。大伴の小伜はやはりこの村に来るか」

つづき→http://kid-blog.blog.so-net.ne.jp/2010-03-03
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