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さよひめ戦記535 011 [小説2]

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「耶麻人の軍はここに長くは止まらぬ。戦の占いさえ済めば、すぐにでも海を渡る」

狭手彦は様々な想いを押し殺して告げた。

「戦の占いは・・・妾がいたしましょう」

小夜姫は微笑んで答えた。

「姫が・・・」

「はい・・・明日、日の出とともに祭りの山に参ります」

「祭りの山・・・」

「昼前には占いは終わります」

「姫が一人でいくのか・・・」

「汝と・・・共に参りましょう」

儀式めいたことを好まぬ狭手彦だったが・・・小夜姫と行動を共にすることに喜びを感じる。

「姫は・・・神の末裔なのか・・・」

「そのように教えられ・・・育ちました」

「戦の占いで・・・吉凶を占うのか」

「お望みなら・・・ただ戦の占いが示すのは・・・日取りの善し悪しです」

「それは・・・」

「海を渡ることは・・・すでに危うきことですから」

「吾は戦の占いなど信じない。河内にも巫女はいたが、自分の身の行く末も知らぬような者ばかりだった」

「姫様の占いは決してはずれない」

声高く言ったのは蜻蛉(アキツ)だった。

自分と姫以外に石動の兄弟がいたことを失念していた狭手彦は驚いた。

「黙っていなさい」と小夜姫は少年を叱り、狭手彦に視線を戻す。「童のことです・・・気になさらぬように」

「いや・・・」と狭手彦は蜂(スガル)に顔を向けた。「この若者にも不思議な術を見せられた・・・姫もそのような術を持っているのか」

「妾はただ・・・影見の山で日神子様にお尋ねします」

「それは・・・末羅の神か・・・」

「日神子様は・・・昔からおられる神・・・昔は皆が日神子様の声を聞くことができたのです」

「吾は神の声を聞いたことはない」

「忘れているだけです」

「忘れた・・・」

「この世のすべてのものは声を発します。人はもちろん・・・鳥や獣だけでなく・・・草花も木々も・・・風の歌・・・海の歌・・・」

「我はそのような歌は聴かぬ」

「人がものに縛られし時・・・魂もまた戒められ・・・その目は閉じられ・・・その耳は塞がれたと教えられました」

「・・・我の耳が塞がれていると・・・」

狭手彦は神がかりをしたような小夜姫にいぶかしいものを感じる。

「将軍は・・・先程・・・部屋の中に敵がいることを殺気として察したのではありませんか」

「・・・」

「目に見えぬものはあるのです・・・壁の向こうに人の気配を感じることはその名残り」

「・・・姫は・・・それを誰に教えられたのか」

「日神子様がお話してくだされた・・・」

「ふむ・・・我もその日神子様と話してみたいものだ」

「明日・・・お話になられるでしょう」

「なんと」と狭手彦は驚きよりも恐怖を覚えた。「神が我と話すというか」

「妾がお伝えします」

「・・・そういうことか」

狭手彦は落胆しつつ肩の力を抜いた。

「・・・将軍の手はすでに血で汚れています」

「そのようなものとは神は話さぬか・・・」

「いえ、語りかけても聞こえぬのです。八百万の神々は耶麻人王にも倭王にも争いを止めるようにと言葉を投げたはず」

「・・・」

「殺し合うから届かない。一度殺せばそれはきりなく続くもの。それ故に耶麻人の宮は今も血生臭い。将軍は今日も人を殺め、明日も人を殺める」

「・・・耶麻人の宮が血生臭いとな」

「耶麻人の奴王は病の身、鷹王子と猫(まがり)王子、そして春木王子のいずれが王になるものか。大伴も物部もそして蘇我も殺戮の後見人となろうとしていること」

「姫よ」狭手彦は目をすわらせて自分を押さえながらで言った。「宮から遠く離れたこの地でそのような内輪のことを汝はなぜ?」 

「ここが・・・神の棲む末羅の地なるがゆえ」

「それならば」狭手彦は自分を押さえかね、触れずにいたことに触れた。「倭の兵の忍び込んだこと。なぜに許したか」

小夜姫は静かに答えた。

「無事と知っていたからです」

狭手彦は沈黙し、そして礼をしながら立ち上がった。そして部屋を去り際に「姫様、ご忠告ありがたく受ける。それでは明日」と言い残した。

狭手彦は顔を紅潮させ振り向かずに部屋を出たが、もし、振り返っていればそこに狭手彦が去ることを不満とする小夜姫の瞳の色を発見し、さらに戸惑ったであろう。(つづく)
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